細胞医療の時代2018シリーズ

第5回「細胞を使った医療の歴史2:免疫細胞療法への熱い期待

(腫瘍、膠原病)報告

 

『細胞医療の時代2018』シリーズは毎回好評を得て、9月14日、第5回を迎えました。東京大学医科学研究所で、70名を超える方たちが参加され、今回は特に、「難しいテーマがわかりやすく解説され、スライドも見やすく、知識向上につながった」、「専門外でも免疫細胞療法の全体像が浮かび上がってきた」など、この分野に対する理解がすすんだとのご意見が多く寄せられています。また、「自分を攻撃しすぎる免疫細胞があり、良い免疫細胞と悪い免疫細胞の違いにさらに興味が深まった」というコメントや、今後のセミナーのテーマとして『光免疫療法』を取り上げてほしいというご希望もありました。

 

 

夢だけど夢じゃなかったー現実化するがんのT細胞療法ー

 

長崎大学医歯薬学総合研究科 腫瘍医学分野

池田 裕明氏

【講演要旨】【講演要旨はこちら

●がん免疫療法
100年以上前からがん免疫療法は研究されていたが、実用化は長らく困難であった。
近年ついに実用化が始まりScience誌“Breakthrough of the Year(2013)”にすべての科学分野から選出。

●免疫チェックポイント阻害療法
がんの免疫編集、つまり排除相、平衡相を経て、逃避相(免疫逃避機構、免疫抑制機構の獲得)でがんが成長し、がんは成長の過程で免疫を抑制する能力を得ていることが明らかになってきた。がん免疫を担うT細胞を抑制するシグナルを伝えるPD-1、PD-L1、CTLA-4等の分子の働きを抑える、つまり抑制を抑制する方法である免疫チェックポイント阻害療法が開発されて、実用的ながん免疫療法が臨床の場についに登場。「がん免疫療法、夢じゃなくなった。」
現在、保健医療として、メラノーマ(悪性黒色腫)、非小細胞肺がん、腎細胞がんなど多くのがんに適用。
  課題/多くのがん種で、10‐30%の効果。高額医療費。

●T細胞輸注療法
①キメラ抗原受容体輸注療法(CAR)/がんを認識する抗体分子とT細胞に抗原刺激を伝える分子を合成し、キメラ受容体というがんを認識する人工レセプターを作成し患者のリンパ球に入れ、がんを認識可能に改変し、体外で増殖させて患者に輸注する。米国/2017年、小児、若年成人の急性リンパ球性白血病に承認。完全寛解/90%、6か月生存/78%。日本でも治験実施。「白血病のT細胞治療、夢じゃなくなった。」
治療費は1回の投与で約5,000万円に。

②TCR遺伝子療法/がんを認識できるリンパ球からT細胞が反応するレセプターを抽出、患者のリンパ球に入れ、体外で増殖させて患者に輸注する。NY-ESO-1/特異的、高親和性TCRを用いて、現在、日本で研究開発。三重大、長崎大、タカラバイオ、大塚製薬。
難治性滑膜肉腫症例における顕著な抗腫瘍効果。厚労省の先駆け審査指定制度の対象(改正薬事法)

●今後の課題
細胞調整コスト削減の必要性。
施設の閉鎖式、完全自動化、モジュール化により、コスト削減、大量調整、多様な製造ニーズに対応。
非自己細胞の利用/健常人由来の質のよいリンパ球で治療効果向上。調整コスト圧縮。必要時に迅速な対応可能。   
非自己リンパ球に対する拒絶反応(GVHD)抑制し、患者の身体から拒絶もされないステルスT細胞の開発。
次世代シークエンサーでがん由来の遺伝子変異を検出し、個別医療に対応、など。
                                                                                                                                              以上

 自己免疫疾患に対する造血幹細胞移植

九州大学大学院医学研究院医学教育学講座 教授

新納 宏昭 氏

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●膠原病とは
 多くは原因不明、自己免疫異常、全身性炎症、多臓器障害、結合組織のフィブリノイド変性など。
 通常は、健診項目からはずれ、不明のまま経過することが大半。
 3つの側面/結合組織疾患、リウマチ性疾患、自己免疫疾患。
 大部分は指定難病だが、リウマチ患者は人口の1%超のため、指定難病として国の支援を受けられない。


●膠原病はどうして起こるか
 遺伝的素因に何らかの環境因子が加わり、発症。
造血幹細胞は、骨髄、胸腺を通過する際、自己寛容トレランスを学ぶが、これを獲得できず、環境因子が加わり、自己免疫疾患を起こす。

●難治性病態(ステロイド、免疫抑制薬に対して治療抵抗性)に対応する造血幹細胞移植(HSCT)
 ・筋症状の乏しい皮膚筋炎/急速性間質性肺炎(IP)を合併、6か月以内に死亡にいたる。
 ・全身性強皮症/身体内部の線維化、IP発症も。5年生存率50‐60%。
スキンスコアで点数化、30超は、かなり深刻。自己反応性細胞出現で、自らの抗原に反応。肺病変も。
   皮膚硬化に対する有効性と安全性から、治療アルゴリズムによって、HSCT適応症例を慎重に選択。
欧州リウマチ学会も免疫抑制剤が有効でない強皮症に対し、HSCTをオプションとして承認(2017年)。

●造血幹細胞移植の臨床応用
 動物モデルでの有効性。骨髄移植患者で、偶然合併していた自己免疫疾患が改善。
 強皮症に対するHSCT/1997年、LANCET誌に発表以後、北大、九大病院でも症例蓄積。
 自己免疫疾患では、自家HSCTで、リスク最少の末梢血幹細胞をつかう。
    自己反応性リンパ球を根絶し、末梢血幹細胞をCD34陽性細胞に純化、新たな免疫系を構築。

●九州大学病院における成績
 ・皮膚筋炎/肺の線維化の進行、難治性皮膚潰瘍で改善。
 ・強皮症/難治性、重篤な強度の自己免疫疾患。皮膚症状の改善。肺機能も緩やかに改善
 ・血管炎症候群
  HSCT後、免疫系の再構築により、T細胞の多様性を回復。
一方、移植後、獲得免疫の司令塔を果たす、CD4リンパ球、T細胞回復の遅れも →細菌感染、ウィルス感染などに対し、早期治療介入へ。
自家HSCT、23例中、5年生存率約90%、CD34陽性細胞に純化した症例の方が好成績だが、リスク・ベネフィットの判断が重要。

 

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