細胞医療の時代2018シリーズ

第6回「細胞を用いた再生医療への挑戦(神経疾患、肝臓疾患)報告

 

『細胞医療の時代2018』シリーズは、2018年12月19日、第6回を東京大学医科学研究所で快哉、約80名の方が参加しました。今回は先日大きく報道されたiPS細胞を用いた脊髄損傷の最先端の治療法などについて慶應義塾大学の岡野栄之先生、また、iPS細胞による膵島移植療法について東京大学宮島篤先生にお話しいただきました。
 「Ongoing and excitingな研究に接することができ、魂がふるえた」、「20年以上にわたる研究が臨床応用にいたり、今後の発展に期待している」、「iPS細胞の利用で人体の失われた機能が再生可能となり、早く多くの患者が恩恵にあずかることを願っている」、「ALSの既存薬による治療法の研究は興味深い』、「多彩な研究に驚いた」」などのコメントをいただき、今回の企画に手応えを感じています。一方、「専門用語がかなり難解で、若干の補足節目があると一般向けにはよいのではないか」とのご指摘もあり、今後の運営の課題と受け止めています。

 

 

iPS細胞技術を用いた中枢神経系の再生医療と疾患研究

From Basic to Common

 From Rare to Common 

 

慶應義塾大学医学部生理学教室 教授

岡野 栄之 氏

【講演要旨】

脊髄再生への挑戦


精髄損傷に対する幹細胞治療の開発とiPS細胞への展望
  神経幹細胞…中枢神経系に存在。胎生期の脳に豊富にあるが、胎児由来のヒトES細胞をめぐる論議から研究は足踏み状態にあったが、iPS細胞の出現に活路。
  神経幹細胞移植…脊髄損傷受傷後の時間経過が重要/受傷後数週間の亜急性期が最適。
   Fibroblast(線維芽細胞)からiPS細胞→神経多能性細胞から神経幹細胞を増殖。
   マウスiPS細胞での機能回復確認後、ヒトiPS細胞を用いてマーモセットでも運動機能回復を示す。

ヒトへの応用/受傷時期が不明で、容態変化の急な脊髄損傷治療における自家移植のむずかしさ。
  GMP(Good Manufacturing Practice)レベルでのiPS細胞の作製/さまざまな品質と安全性の検証。
  →京大iPS細胞バンク(CiRA)と再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト/神経前駆細胞として冷凍ストック。
  →亜急性期脊髄損傷に対する臨床研究を開始(慶応大学病院)。
    また、製薬企業と連携し、治験へ移行。
    再生医療製品の早期承認制度による慢性期脊髄損傷他さらなる適応拡大も。

 

神経疾患の病態解明・創薬/社会実装


家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)から孤発性ALSへ…家族性はALSのうち5‐10%。
 ALS…上位・下位運動ニューロンの選択的脱落。  
    家族性ALSは単一の遺伝子変異によって発症するが、残りの約90%の孤発性手がかり不明。
 家族性ALS解析から原因遺伝子FUS(Fused in Sarcoma)を発見。
   →iPS細胞から運動ニューロンの分化誘導法を開発、ALSにおける神経突起の変化を解析。
   →薬剤スクリーニングのエンドポイントとしての活用から、既存薬スクリーニングへの応用が可能に。

既存薬を用いる創薬研究の優位性
 安全性の担保、薬物動態が解明済み、既存データの活用などから臨床応用への移行が加速。
 ALSへの応用…パーキンソン病治療薬“ロピニロール”(日本2006年承認)/関節経路を抑制する働き。
 PMDAとの事前面談を経て、ALSにおけるこれまでの承認薬と比べ2‐3倍程度の薬効が判明。
      孤発性ALSについても約70%の有効性(in vitro)→ALSへの治験を開始、参加者を募集。

From Rare to Common
 主な神経変性疾患
 (パーキンソン病、アルツハイマー病、難聴など、家族性/10%、孤発性90%)への応用へ。  
 

  (文責:NPO健康医療開発機構)

​以上 

                                                                                                                                                 

幹細胞による肝・膵の再生医療の現状と展望

東京大学定量生命科学研究所 幹細胞創薬社会連携研究部門 教授

宮島 篤 氏

​【講演要旨】 

iPS細胞を基盤とする次世代型膵島移植療法の開発


1型糖尿病患者に対する膵島移植の問題点
 ↓ 圧倒的なドナーの不足と免疫抑制剤の使用(生涯にわたる使用、副作用、高額医療費など)
 戦略 /  iPS膵島を免疫細胞隔離膜に封入して移植
    ドナー不足の解消。免疫抑制剤は不要。隔離膜封入により安全性の向上など。

●ヒトiPS細胞からの膵島形成
 ヒト臨床スケールを見すえた大量培養技術の取組み
    穏やかな旋回培養によりiPS細胞由来の細胞凝集塊を効率よく形成させる新しい技術。

    iPS細胞の凝集抑制を加え、適度な大きさの細胞塊を形成。

    →効率よい分化誘導を実現。

免疫抑制剤不要の移植へ
  細胞ファイバーをつくり、膵島を移植→免疫抑制剤を使わず、血糖値を正常化。
    小型霊長類マーモセット糖尿病モデルでの実証/iPS細胞からつくった膵島を細胞隔離ファイバーに封入。
    →血糖値の低下。インスリンを分泌(世界初)。長期観察継続へ。

課題/ヒトへの臨床に向けて、iPS由来の膵島の大量培養における高コストの削減。
  
肝疾患における再生医療


待たれるLPCの動態解明と制御機構
 肝臓自体は再生能力の高い臓器
  →部分肝切除後、肝実質細胞であるヘパサイトや胆管上皮細胞が分裂や肥大。
  一方、重篤、慢性的障害のある場合、ヘパサイト自身の増殖が阻害され、未分化性をもつLPC(Liver   stem/Progenitor cell)が出現。LPCは疾患の重篤度と関連していると示唆されている。

肝悪性腫瘍に対する治療/「繰り返し肝切除」における癒着の回避 
 マウスモデルにおける肝中皮細胞シートのすぐれた癒着防止効果。
  他家移植が可能→ひとつのiPS細胞から多くの患者さんに使える。
  移植細胞の生着は短期間で、しかも免疫系で排除→がん化の可能性がきわめて低い。

(文責:NPO健康医療開発機構)

以上