第37回健康医療ネットワークセミナー 報告
 

海外のがん情報を提供するボランティア ―患者参加型医療と情報―

一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)
副理事長 野中 希 氏

【講演要旨】

日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT)では、最新の欧米の医療情報を翻訳し、無償公開しており、ほぼ毎日内容を更新しています。https://jamt-cancer.org/
米国国立がん研究所(NCI)、米国食品医薬品局(FDA)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国がん学会(AACR)、MDアンダーソンがんセンター、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)などなど、信頼のおける組織から発信されるものをリソースとして、学術論文や医療ニュースのみならず、動画の字幕も手掛けており、これまでに、NCIのガイドブックなど3冊を出し、これらは電子書籍としても販売されています。

 

確かな情報にアクセスできない!
がんに関わる医療翻訳をするきっかけになったのは、2001年末、夫の弟が希少がんである小腸腺がんと診断されたことでした。主治医の説明は難解で、患者会や相談の窓口もない。同年代の若い人ががんにかかり、何とかしたいという思いで必死でした。当時、本人への告知は行われておらず、家族に意思決定が委ねられているのに、インターネットで検索しても疾患や治療に関する情報は得られません。ところが、英語で検索すると、さまざまな医療機関の情報、新薬に関しては詳細なデータに、ぞくぞくとヒットしたのです。米国では分子標的薬が次々に登場していた時代です。
2004年、「海外がん医療情報リファレンス」を開設。その後、夫の転勤に伴い、拠点を関西から東京に移し、ネット上で知り合った専門家の先生方のご協力もあって、2009年、法人化して現在の組織を立ち上げました。
ここで日本のがんを取り巻く時間の流れをふり返ってみましょう。2005年、第1回「がん患者大集会」開催。この頃ドラッグ・ラグのため日本では使えない未承認薬の個人輸入の問題が表面化しています。2006年に「がん対策基本法」が成立し、国立がん研究センター「がん対策情報センター」設立され、患者と日本対がん協会によって、第1回「リレーフォーライフ」が開かれました。2013年、国立がん研究センターに「がんサバイバーシップ支援部」が発足。2015年、全国がん患者団体連合設立。2016年、全国がん登録開始され、改正がん対策基本法が成立しています。

信頼性の高い情報が日本になぜ必要か
2009年東大附属病院にいらした後藤悌医師(JAMT理事)が、インターネットがん情報の日米比較をまとめました。日米の著名なインターネット検索エンジンで、「4期」「非小細胞肺癌」「治療」に関する記載を検索し上位50サイトについて検討したところ、情報発信源、引用文献や最終更新日の記載などで大きな差があり、正しいがん情報の割合は、グーグルUSAでは8割、グーグル日本では3割に過ぎないというショッキングな結果になりました。日本では、検索エンジンの順位はがん情報の正確性を担保しておらず、それどころか数ある有用な情報源に簡単にアクセスできないという深刻な事態を生じています。ヘルスリテラシーに関する日欧の比較でも、「不足」「問題あり」とする人が日本では85%と欧州平均の1.8倍、「医師の説明が難解」と感じる人は3倍に及んでいまする。
日本と欧米の医療リテラシーの差は、日本では、医学情報の閉鎖性/患者からのアクセスが難しいことに加え、医学のエビデンス(科学的根拠)はほぼ英語によるなどが壁になっていることが大きいと思われます。エビデンスに基づく医療(EBM)という面で、PubMed(米国医学図書館)は、すべての医学論文の抄録をフリーアクセスで無料公開し(全360万記事)、誰でも読める。また、”Compendia”というリスト制度があり、ここで指定されたジャーナルに研究論文が掲載されると、その薬の公的保険の適用が認められるという画期的な制度ものです。論文は、医師だけでなく、患者や家族にも大切なものになっているのです。

信頼性の高い情報ほど検索順位が下がる?!
私たちは、●必要とする患者さんに情報を届ける。●言語の障壁をなくし、がん医療に貢献する。●がんの啓発、医療リテラシーの向上を、ミッションとして掲げています。2004年、ほとんど個人的なサイトとして立ち上がった当初は2~3名のボランティア翻訳者も、現在は125名を数え、合わせ55名の監修者に支えられて、現在毎年300~400件の欧米の最新医療情報を公開しています。ウェブサイトの運営の他、医療翻訳者の育成、患者会国際化の支援なども行っています。動画の字幕については、翻訳とは異なる技能が求められ、がんサバイバーでもあるプロの映像翻訳者による勉強会も開いています。活動していくうえで、ハードルが高いのは、翻訳の許諾申込みです。海外の組織は、翻訳には関心がうすいうえ、英語の情報がすべてと思っているようです。PubMedさえ国の組織ですが、出版社の許諾が取れなかったりしますません。また、相手先の担当者が変わると対応が一変するのも、悩ましいところです。
さらに、溢れるネット上におけるがん情報の信頼性の見極めも重要です。新しい医療情報は年を追うごとに増加する一方。ネット検索上位に、でたらめサイトやマイナーなサイトが横行している。エビデンスの確立していない自由診療による治療や代替療法、商品の広告が氾濫しているのです。昨年は、検索上位に掲載されるように、大手企業がまとめサイトにでたらめな情報を流していたことが発覚し、サイト閉鎖に至っています。信頼性の高いサイトほど順位が落ちる?!という傾向さえある。これにはメディアの責任も大きいと思われます。日本の一般メディアでは、医学担当者は2~3年で交代するのに対し、欧米では、メディカルライターは資格が必要です。信頼性の高い医療情報を発信するためには、エビデンスレベルが確保されていなければなりません。

患者参加型医療をめざして
2011、2012年とアドボケート・スカラシップを得て、シカゴで開催されるASCOに参加しました。毎年3万人以上を集め、がんとしては世界最大の学会です。患者アドボケートにも、製薬企業から支援があり、受け入れてもらいました。すごい数のセッションがあり、4日間のうち2日、患者のために多くのセッションが用意されています。1日の終わりには医師による学会発表について患者向けにかみ砕いた説明があり、各患者会と交流する機会も設けられています。この機会に、ワシントンDCの米国国立衛生研究所(NIH)臨床センター、NCIに加え、テキサス州ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターを訪問しました。こちらのモーガン・ウェルチ炎症性乳がん研究センター代表の上野直人教授は、JAMTの監修者のお一人です。NCI指定45のがんセンターの一つで、毎年のようにベストホスピタルに選ばれていまする。100近いビルが集まり、映画館、ホテル、レストランを備え街全体が病院であり、充実した図書館では、学術論文も印刷してくれます。年間2,000以上の臨床試験が実施され、結果は患者に反映されまする。その審査は4段階で評価され、一般委員は倫理的観点から意見を述べます。私も、国内の臨床試験機構で倫理委員を務めており、一般委員の役割についてはたいへん参考になりました。
昨年は、デンマークのコペンハーゲンで開催されたESMOに、患者アドボケートとして参加しました。こちらは2万人規模で、患者セッションが初めて学会のプログラムに組み込まれたこともあり、患者のワーキンググループのパワーに迫力を感じました。「知識は力。時間がない!患者ネットワークが臨床試験を動かす」と、患者会が臨床試験をデザインし、プッシュしていく。すごい力です。患者にもサイエンスをと、2014年には欧州患者治療開発アカデミーも設立されていますについて、発表がありました。日本でも、患者参加型のプログラムがいくつもの学会で始まっています。

エビデンスに基づく医療の構築をめざし、1992年英国で始まったコクラン共同計画があります。コクランのシステマティック・レビューは8,000を超え、WHOでも信頼性の高いエビデンスの引用に基づくものとして多くが採用されています。2014年国立成育医療研究センターに日本支部ができ、今年コクラン・ジャパンが設立され、JAMTも参加することになりました。
「情報に基づく意思決定/Shared Decision Making」に正しい情報は欠かせません。医療者と患者の情報の非対称性の解消、患者参加型医療をめざし、活動を続けたいと思います。

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