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細胞医療の時代2018シリーズ

第4回「細胞を使った医療の歴史1:細胞で病気が治る

(造血幹細胞、膵島移植)報告

 『細胞医療の時代2018』第4回は、6月26日、東京大学医科学研究所で、50名近くの方たちを迎え、細胞を用いた医療の中でも長い歴史のある造血幹細胞と、新しいアプローチの導入が期待される膵島移植の取組みについてお話をうかがいました。
 セミナーに参加された皆さんからは、「臍帯血移植や膵島移植はまったく知らなかった世界なので、興味深く聞いた」、「ハンドアウトの資料はありがたい」、「たいへん勉強になった。今後も企画を続けてほしい」というコメントに加え、「専門的な内容が多く、用語もむずかしかった」とのご意見もありました。貴重なご意見に感謝しています。

 

造血幹細胞移植の過去、現在、未来


 東京大学医科学研究所先端医療研究センター分子療法分野 

高橋 聡氏

【講演要旨】 

造血幹細胞移植
 1980年代半ば、骨髄移植は先端医療。当時、白血病は不治の病との認識が主流。
 造血器腫瘍/白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群など。
      30年前比、どれも余命は大きく改善。
 自家移植は比較的安全だが、同種移植(他家)の方はリスクが高いもの効果的。

        
・骨髄移植/1960年代~ 患者には強い抗がん剤の投与、放射線照射、骨髄の細胞を輸注。
       造血幹細胞の再生を促す。
・末梢血幹細胞移植/1990年代~、末梢血細胞採取におけるG-CSF(白血球を増やすホルモン)の役割。
・臍帯血移植/新生児の末梢血には造血幹細胞が濃縮に存在。但し、絶対量は少ない。                
     現在、①血縁ドナーからの骨髄移植、②(非血縁ドナーからの)骨髄バンク、③臍帯血移植は各ほぼ

     1/3。

臍帯血移植とさらなる改良
  短期間で細胞を入手可能。臍帯血は凍結保存できるいわば「細胞製剤」。
  ドナー(お母さん)に負担・リスクを与えない。確実性、利便性、ドナーの安全性においてメリット。
  一方、絶対量の少なさ(せいぜい100cc)。成人の骨髄移植ではドナーから1Lは必要。
  また、前処置である抗がん剤、放射線治療により、患者白血球数が急落、ほぼ0となり、ドナー由来の白

  血球が増えるまで、他の骨髄移植より、更に約1週間多く必要。この時間差が、細菌感染の第一防御壁で

  ある好中球の回復にとってカギ/造血免疫再構築の遅れ。
    →細胞数多ければ、白血球数の回復スピードと生着率に寄与。
    →臍帯血移植国際多施設共同臨床研究の実施
     Notch(造血などの分化過程に関する遺伝子調節経路)刺激による臍帯血細胞の増幅
      白血球レベルがダウンする一過性期間にのみ増幅した臍帯血を補助製剤として働かせ、かつパーマ

          ネントに生着させない。結果として、当初の臍帯血だけが存続。
       免疫細胞中のCD34陽性細胞を分画し、造血補助製剤として用いる。
 
 ●
ウィルス感染対策
 臍帯血は、免疫の記憶がないため、ウィルス感染を比較的高率に発症する課題克服がカギ。
 特異的T細胞療法/ウィルスに対する根本的治療である免疫療法。T細胞回復が効果的。
 移植の場合は、ドナーからつくるが、最終的には第三者ドナーからT細胞を作成、細胞製剤として利用。
  GVHD(移植片対宿主病)副作用はほとんど認められず。米国ベイラー大学と共同研究。
 日本独自の技術を加え、さらに安全性を高める方向へ(東京医科歯科大学、東大医科研)。
 (文責:健康医療開発機構)

    
以上

膵島移植 ―糖尿病に対する細胞移植治療ー

国立国際医療研究センター研究所 膵島移植プロジェクトプロジェクト長

霜田 雅之 氏

​【講演要旨】 【講演要旨はこちら

    
現在実施されている再生医療
・1型糖尿病患者に対する脳死/心停止ドナーからの同種膵島移植(国内初/2004年京大病院)
  移植後、血糖値の大幅改善。英国、カナダなど/標準治療。日本/先進医療制度下で第Ⅱ相臨床試験実施

  中。局所麻酔のため、患者負担軽い。近い将来、標準治療化へ。
・強い痛みを伴う慢性膵炎患者の場合/本人膵臓切除および自家膵島移植
  顕著な除痛効果と2次性糖尿病の予防。免疫抑制剤は不要。
  国立国際医療研究センターでは2016年~3例実施(第三種再生医療等技術に該当)。
  遺伝性膵炎症例は、膵癌の予防としても有用な可能性あり。

次世代糖尿病治療(再生医療・細胞移植)
①脳死ドナー不足の解消 メリットと課題
 ・ヒト多能性幹細胞/ES細胞、iPS細胞……無限に増殖、どんな細胞にも/培養コスト、腫瘍化の課題。
   ヒトiPS細胞を用いた人工膵島移植/組織・細胞加工製品としてiPS-膵島を確立。AMED/再生医療実

   現拠点ネットワークプログラム事業。世界初、霊長類モデルで血糖降下作用等を確認、臨床応用へ。
 ・ヒト体性幹細胞や体細胞……入手容易、自己細胞可能/分化効率が課題。
 ・動物の膵島(特にブタ)……大量に入手可能、安価/人畜共通感染症の懸念。(後述)


②免疫抑制剤不要の可能性
  膵島細胞を免疫隔離膜によりカプセル化。


①+②により、高い安全性とコスト削減が可能に。

ブタ膵島を用いたバイオ人工膵島(対象:不安定1型糖尿病患者)
①ブタ膵島を用いるため大量生産可能→ドナー不足の課題解消へ。
②免疫隔離カプセルが拒絶の原因となる細胞と抗体をブロック→免疫抑制剤は不要に。
  医療用ブタ(無菌ブタ)は、ヒトに比べて、感染がコントロールされ、安全。
  質の高い膵島を安定して分離可能。各国での臨床実績(1990年代~)。
  ブタ膵島異種移植に対する患者の許容意識について、約半数は受容可。
  ロバート・エリオット教授(NZ)/腹腔内に免疫抑制剤なしで、カブセル化ブタ膵島を移植。
    アルゼンチンに空輸、移植実績も。ブタ内在性レトロウイルス(PERV)感染は見られず。
    臨床試験実施のために
    「第1種再生医療等技術」(再生医療等の安全性の確保等に関する法律)等の倫理審査、異種移植

​     に関する国際ガイドライン他、厳格な基準を満たせば、日本でも異種移植が可能に。

以上

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