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細胞医療の時代2018シリーズ

第7回「細胞移植から臓器移植へ」報告

 

 『細胞医療の時代2018』シリーズは、2019年3月28日に開催された第7回をもって最終回となり、今回も60名を超える多くの方々が参加しました。
 長らく原因不明とされ、患者数も年々増加傾向にある炎症性腸疾患の発症要因の解明と画期的な治療法開発、そして、「臓器ニッチ」という考えのもとiPS細胞をつかい患者自身の臓器を作出しようとする国境を越えておこなわれている挑戦について、紹介されました。
 「二つの講演とも、導入部で基礎的な知識と問題点を提示されたので、素人でもよくわかった」、「開発ものはおもしろい」、「日本が後れをとっている分野がわかり、歯がゆい」、「地道な現場の努力に感銘をうけた。将来への夢、医療の進歩を着実に感じとれた」など、手ごたえのあるご意見をいただきました。

 

炎症性腸疾患に対する再生医療の開発

 

東京医科歯科大学消化器内科・再生医療研究センター 教授

岡本 隆一 先生

【講演要旨】【講演資料はこちら

「腸」こそが全身の健康を保つために不可欠な「司令塔(第2の脳)」 /  内なる外
 ・人体最大の免疫組織、内分泌組織、末梢血管組織、末梢神経組織、細菌叢(100兆個)
 ・上皮/生体の内と外を隔てる「生体の最前線」、内外を機能的につなぎ、調和を保つ
  小腸…突起状、絨毛   大腸…くぼみ、陰窩(いんか)
  上皮最下層の幹細胞を起点に新しい細胞をつくり、分化し、5種の機能をもつ細胞になる。
   この幹細胞の“ニッチ”シグナルが分化系譜を制御。胚細胞、パネート細胞などは「免疫」で重要な存  在。
     →炎症性腸疾患と深い関わり。
 ・急増する炎症性腸疾患…潰瘍性大腸炎(UC、大腸)、クローン病(CD、大腸、小腸)合計20万人以上
     腸上皮…「交差点」として多彩な病変をつくる/環境・遺伝性因子、腸内細菌、免疫応答
     大腸の「胚細胞(大腸表面の粘液をつくり、細菌などから防御)」が消失→UCに。
     小腸「パネート細胞」の2つの役割… 幹細胞ニッチ/隣接する幹細胞を維持。粘膜で
                        細菌防御/抗菌活性を備えたペプチドを産生・分泌。
     →これらの機能破綻により、炎症性腸疾患を発症か。

「炎症の制御」から「粘膜治癒」を目ざす時代に
    ・抗TNF-α抗体(生物製剤)…強力な炎症制御。「粘膜治癒」を目ざす革新的変化(2010年~)。
  ・ 「粘膜治癒=上皮機能の再生」が治療目標。
  抗TNF-α抗体による粘膜治癒は50-60%にとどまる。
     →再生しにくい腸管粘膜にある「組織修復機構」に着眼…体外で幹細胞を増殖し、再生機能を補完できるか?

腸上皮幹細胞の体外培養技術の再生医療への応用
 ・腸上皮オルガノイド(3次元構造体)
    完全な球体。無限に増殖可能。がん化しない安全な細胞。幹細胞が多数存在。
 ・幹細胞を含むオルガノイド移植…大腸の潰瘍を再生し、予後を改善する
  →炎症性腸疾患を対象とした「再生医療」の開発に。
   マウスモデルで腸管経由オルガノイドを注入し、損傷粘膜で幹細胞として生着、大腸の潰瘍再生と予後改善。

内視鏡的腸上皮幹細胞移植による再生医療の開発…体性幹細胞の自家移植
 ・体性幹細胞をつかった唯一の再生医療開発プロジェクト(政府からH25年~10年間の支援)
 ・安全性確保、規制準拠、安定した移植用細胞の提供の必要性
                          …適切な培養条件設定、さらに臨床グレードへ。
 ・約30日間の培養で10^8個以上の移植用細胞を調整可能に。
 ・感染症リスク、ウィルス感染、がん化リスクにつながる変化は認められず、培養の専門技官を育成。

 ・マウスモデルと異なり、ヒトでは、より少ない細胞で、局所を狙って集積する。
  →治療までの待機期間の短縮と治療コスト削減に。
 ・移植細胞の散布、シート封入し、炎症局所への細胞定着へ。ブタ直腸体外モデルでシミュレーションを実施。
  First-in-human(FIH)study実施へ。
  

 

以上

「iPS細胞から臓器をつくる:国境を跨いだ挑戦」

スタンフォード大学 幹細胞生物学・再生医療研究所 教授、

東京大学 医科学研究所 幹細胞治療部門 特任教授

中内 啓光 先生

​【講演要旨】 


iPS細胞から臓器をつくる
◆臓器移植の課題(圧倒的ドナー臓器の不足、免疫拒絶、脳死移植、ブラックマーケット由来臓器などなど)
→iPS細胞作製技術による患者自身の多能性幹細胞から臓器をつくる/再生医療の緊急課題のひとつ。

◆胚細胞補完による「臓器ニッチ」というコンセプト/動物発生のメカニズムを利用
    ・試験管内で幹細胞から三次元構造の臓器をつくるのは困難。
  ・正常な幹細胞由来のiPS細胞を、腎臓欠損キメラマウスの胚に入れ、iPS細胞由来の腎臓を形成。
   マウス のiPS細胞由来の膵臓をラットの体内で作成。マウスの膵臓はラットサイズ。
  ・ラット体内で作られたマウス膵臓から採取した膵島をⅠ型糖尿病のマウスに移植
       →完治。免疫抑制剤は最初のみ。マウス膵島内のラット細胞は残存せず。
    ・大型動物では機能するか? ヒトの臓器と生理学的機能など似ているブタ、ヒツジではどうか?
     マウスと同じく、膵臓を欠くブタに、他のブタの幹細胞を入れると膵臓が正常化したブタに。
     しかしながら、当時の日本のガイドラインはヒト多能性幹細胞を注入した動物性集合胚を体内に戻す  ことを禁止。
    2019年3月ガイドライン改定により、本格的実験へ。

◆スタンフォード大学での研究/ヒツジをつかった研究に重点
  ・CRISPER/Cas9システムにより、膵臓のないヒツジを効率よくつくり、ヒト由来のiPS細胞をヒツジの胚に移植。
   大型動物を扱う難しさ/マウス実験と異なり、大掛かり、費用も時間もかかる(UC Davisとの共同研究)。
   20頭のうち9頭の胚で、ヒトのDNAを確認→このレベルをいかに向上させるか。
   種のカベ(進化的距離が遠いほど克服困難)を乗り越えることに集中し、臓器再生を目ざす。

造血幹細胞の体外増幅と次世代の造血幹細胞移植
   ・他人からの造血幹細胞移植(HSCT)/いわゆる骨髄移植
  適合ドナーの少なさ、放射線照射などのコンディショニングの必要、免疫拒絶反応/免疫抑制剤の使用。
   ・遺伝性血液疾患の患者から造血幹細胞を採取、培養の間、CRISPER/Cas9により、遺伝子異常を正常化することが可能になるのでは。
    これを造血幹細胞移植、治療→コンディショニングなしで、生着。安全性の高い治療法として、様々な疾患に対応も。

ES/iPS細胞技術を利用した新しい輸血のソース  ―献血に頼らない輸血を実現する―
   100%献血に依存している輸血は、少子高齢化により10年以内に日本国内では自給自足不可能に。
 まずは、血小板作成。Financial Timesで紹介も。米国と日本で臨床試験を目指す。

iPS技術を利用した新しい免疫治療  ―若くて活性度の高いキラーT細胞を無限に供給―
   老化により機能低下したオリジナルキラーT細胞を、一旦iPS細胞に変換、若返らせ、再び分化させて若く て活性の高いキラーT細胞を無限に供給するシステムを開発。臨床治験を目指す。


 

以上

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